熊本県菊池市
廣現寺(こうげんじ)より有縁の方々へ
「表札の想い出とそえる思い」
鐘楼堂(しょうろうどう)の入り口に慈雲山 廣現寺と書かれた表札があります。
これは今から約30年前に私の父(前住職)が彫刻刀で彫ったものです。
当時、小学生だった私も見よう見まねで一緒に彫ったことを想い出します。
文字の所に金箔をあてて箔を押すのですが、これがまた難しくて
何回も失敗して父から「金箔は高かっぞ!(高いのだよ)」と怒られるものの、
私が「お父さんも失敗しているじゃん!」と突っ込むと
「バレたか」と父が笑い、そんな談笑しつつ完成させた想い出の表札です。
時は流れ、その表札としての役割を果たすなかで、
次第に金箔も剥がれ文字そのものが板の色と同化し、
遠くから見えづらくなってまいりました。
色々と悩みましたが、修復し新しく再生させることにいたしました。
業者さんの力を借りて、表面を綺麗にして
父の彫った文字が浮き出るように周りを黒く塗り、文字を白で塗りました。
完成したものを遠くから見ると、あの独特で好きだった父の字がハッキリと見えて、
ニヤリと笑った父の顔までが想い出されジワリと涙がこみあがってまいりました。
今回は表札の修復と共に、「ようこそようこそ」と書いた看板を新調し、
お寺の表札と対をなすように掛けてあります。
文字通りの意味なのですが、「ようこそ」という言葉を辞書で引くと、
「よくこそ」の音が変化したもので、違う表現では「よくぞ」とありました。
様々な用事雑事をさしおいてよくぞお参りくださいました。
よくぞ仏法にであう縁においでくださいました。
そんな思いを父の作った表札に添えて、これからも皆様をお待ちしております。
合掌
てくてく坊主 秋吉顕誓